付き合ってあげてもいいかな 10巻 レビュー：伝わらない想いと心の痛みを描く深層心理巻

作品概要

タイトル： 付き合ってあげてもいいかな
作者： たみふる
出版社： 小学館（裏サンデー女子部）
発売日： 2023年2月
巻数： 10巻 ※シリーズ全14巻完結

あらすじ

「ちゃんとまた、わかりあえるよ。」自分自身の不甲斐なさに沈む優梨愛と、それをどうすることもできない冴子。彼女なりの愛情を示してくれている環と、それでも満たされない夜に悩むみわ。
「知りたいの。本当の気持ち、教えて…」私がしたいこと、私がしてほしいこと。
その、あともう1mmが、伝わらない。心の痛みに翻弄される第10巻です。

見どころ

優梨愛の自己嫌悪と冴子の無力感

優梨愛が自分自身の不甲斐なさに深く沈んでいる姿と、それを見守るしかできない冴子の無力感が痛々しいほどリアルに描かれています。愛する人の苦しみを和らげてあげたいのに、どうすることもできない歯がゆさが見事に表現されており、恋人同士でも完全には救えない部分があるという現実的なテーマが浮き彫りになります。

みわの満たされない気持ちの複雑さ

環からの愛情を受けているにも関わらず、どこか満たされない想いを抱えるみわの心境が繊細に描写されています。相手が愛情を示してくれているのに満足できない自分への罪悪感と、それでも求めてしまう何かへの渇望が複雑に絡み合った心理状態は、多くの読者が共感できるリアルな感情描写となっています。

「あともう1mm」伝わらない想い

「あともう1mm」という表現で象徴される、恋人同士でも完全には伝わらない微細な想いの違いが、この巻の核心となっています。言葉にできない、わずかな距離感や理解の差が、関係性にどれほど大きな影響を与えるかが丁寧に描かれており、恋愛の複雑さと難しさを見事に表現しています。

それぞれの愛情表現の違い

各キャラクターが持つ愛情表現の方法や、愛情を感じ取る方法の違いが詳細に描写されています。環のやり方、みわの求めるもの、冴子の接し方、優梨愛の感じ方など、それぞれが異なる愛情の形を持っていることが示されており、恋愛の多様性と個人差の重要性が浮き彫りになります。

作者の特色・技法

たみふるさんの心理描写の技術が最高レベルに達している巻です。言葉にならない微細な感情の動きを、表情の変化や仕草、コマとコマの間の「間」で表現する技法が特に優れています。また、4人の登場人物それぞれの視点を巧みに切り替えながら物語を進める構成力も見事で、読者は多角的な視点から恋愛の複雑さを理解することができます。

ジャンルとしての評価

百合・ガールズラブジャンルにおいて、恋愛関係の最も深い部分、すなわち完全には理解し合えない部分を正面から描いた作品として非常に価値があります。表面的な幸せや甘さだけでなく、恋人同士でも抱える孤独感や満たされなさを描くことで、ジャンルに新しい深みと現実性を与えています。恋愛の本質的な困難さを扱った成熟した作品です。

総合評価

★★★★★ 5/5

恋愛関係の最も繊細で複雑な部分を見事に描いた、シリーズ中でも特に心理描写に優れた巻です。読者の心に深く響く内容で、恋愛経験のある多くの人が共感できるリアリティを持っています。恋愛漫画として最高レベルの完成度を誇り、読後に深い余韻を残す傑作となっています。

こんな人におすすめ

• 恋愛の複雑さと微細な心理を描いた作品を求める方
• パートナーとの理解の差に悩んだ経験がある読者
• 深い心理描写を重視する恋愛漫画好きの方
• 人間関係の繊細な部分を丁寧に描いた作品が好きな方