付き合ってあげてもいいかな 9巻 レビュー：新たな恋と過去のトラウマ

作品概要

タイトル： 付き合ってあげてもいいかな
作者： たみふる
出版社： 小学館（裏サンデー女子部）
発売日： 2022年8月
巻数： 9巻 ※シリーズ全14巻完結

あらすじ

「あたしが一番、嫌だったのにね」互いの気持ちを確かめあったみわと環。その一方で冴子は、「フツー」ではない恋愛に対する周囲の反応に、いらだちを隠せませんでした。忘れがたい、苦い過去。
「どんな顔でもいいよ。笑ったりしないよ」寄り添う恋人の体温と、まっすぐな言葉。
一歩先へと踏み出す第9巻です。

見どころ

みわと環の関係の深化

新しいパートナーである環との関係がより深いレベルで発展していく様子が丁寧に描かれています。互いの気持ちを確かめ合うプロセスは非常にリアルで、恋愛関係の自然な発展として読者の心に響きます。みわが環との関係で見せる新しい魅力や、環の優しさと理解力が印象的に描写されており、二人の関係に対する読者の感情移入が深まります。

冴子の過去のトラウマと成長

冴子の中学時代の過去が明かされ、なぜ彼女が「フツー」ではない恋愛に対して複雑な感情を抱くのかが詳細に描かれます。過去に受けた傷が現在の彼女の行動や心理にどのような影響を与えているのかが、セーラー服姿の冴子の描写も含めて見事に表現されています。この過去の開示により、冴子というキャラクターの深みが一層増しています。

同性愛への社会的反応の現実

「フツー」ではない恋愛に対する周囲の反応というテーマが正面から取り上げられています。冴子のいらだちと苦悩を通じて、同性愛者が日常的に直面する困難さがリアルに描かれており、作品に社会的な深みを与えています。この描写は多くの読者にとって考えさせられる内容となっています。

恋人からの支えと理解

「どんな顔でもいいよ。笑ったりしないよ」という台詞に象徴されるように、パートナーからの無条件の受容と支えが美しく描かれています。優梨愛からの冴子への理解と愛情が、冴子の心の傷を癒していく過程が感動的に表現されており、恋愛関係の持つ癒しの力を感じさせます。

作者の特色・技法

たみふるさんの過去の描写技法が特に秀逸な巻です。現在と過去を効果的に対比させ、キャラクターの心理的背景を深く掘り下げています。特に冴子の中学時代の制服姿の描写は、キャラクターの成長と変化を視覚的に表現する巧みな演出となっています。また、複数のカップルの関係を並行して描く群像劇としての構成力も向上しており、読者は様々な恋愛のかたちを楽しむことができます。

ジャンルとしての評価

百合・ガールズラブジャンルにおいて、同性愛に対する社会的な問題を正面から取り上げた意欲的な作品です。単純な恋愛描写を超えて、現実社会で同性愛者が直面する困難さを丁寧に描くことで、ジャンルに新しい社会性を与えています。また、過去のトラウマがどのように現在の恋愛に影響するかという心理的なテーマも巧みに織り込まれており、作品の質を高めています。

総合評価

★★★★★ 5/5

新しい恋愛関係の発展と過去のトラウマの克服という二つの重要なテーマを見事に描いた傑作巻です。キャラクター描写の深みと社会的なテーマの両方を兼ね備えており、読者に強い印象を残します。シリーズの中でも特に感情的な深みがある内容として、多くの読者の心に響く作品となっています。

こんな人におすすめ

• 同性愛に対する社会的な視点を含んだ作品を求める方
• キャラクターの過去と現在の関係性に興味がある読者
• 複数カップルの恋愛を描いた群像劇が好きな方
• トラウマの克服と成長を描いた物語を読みたい方