付き合ってあげてもいいかな 11巻 レビュー：価値観の違いが生む愛のすれ違い

作品概要

タイトル： 付き合ってあげてもいいかな
作者： たみふる
出版社： 小学館（裏サンデー女子部）
発売日： 2023年9月
巻数： 11巻 ※シリーズ全14巻完結

あらすじ

「体ごと愛してもらわないと、不安なの…」優梨愛の実家で、彼女の夢の原点を知る冴子。みわと環の、性への価値観のズレは二人の間に少しずつ溝を作っていきます。「なんでいっつも、性欲にしか行きつかないの…!?」何を愛情と感じるか、何を重荷に思うかは、それぞれ違って、どうしても交わらない…。想い合う二人のわかりあえなさを憂う、第11巻です。

見どころ

性に対する価値観の深刻な対立

みわと環の間で起こる性への価値観のズレが、この巻の中心テーマとなっています。「なんでいっつも、性欲にしか行きつかないの…!?」という環の言葉は、恋愛関係において避けて通れない重要な問題を浮き彫りにします。身体的な親密さを愛情表現と捉える人と、それを重荷に感じる人の間の深刻な溝が、非常にリアルかつ痛切に描かれています。

優梨愛の不安と愛情の表現方法

「体ごと愛してもらわないと、不安なの…」という優梨愛の言葉は、愛情を確認する方法の個人差を示しています。身体的な接触や親密さを通じて愛を感じる必要がある人の心境が丁寧に描写されており、愛情表現の多様性と、それが理解されない時の孤独感が見事に表現されています。

冴子による優梨愛の理解の深まり

優梨愛の実家を訪れた冴子が、彼女の夢の原点を知ることで関係がさらに深まっていく様子が描かれます。相手の背景や原点を知ることで生まれる理解と愛情の深化が美しく表現されており、二人の関係の成熟度が感じられます。家族との関係も含めた優梨愛の全体像を知ることで、冴子の愛情も一層深いものになっていきます。

わかりあえなさの受容の困難さ

恋人同士であっても完全には理解し合えないという現実を、各カップルがそれぞれ異なる形で直面する様子が描かれています。愛し合っているからこそ理解したい、理解されたいという気持ちと、どうしても交わらない部分があるという現実の狭間で苦悩するキャラクターたちの姿は、多くの読者の心に深く響きます。

作者の特色・技法

たみふるさんのデリケートなテーマへの取り組み方が特に光る巻です。性に関する価値観の違いという非常に繊細な問題を、説教臭くなることなく自然な形で描写する技術が見事です。また、各キャラクターの価値観を否定することなく、それぞれの立場を理解できるように描く配慮も優れており、読者は特定のキャラクターを悪者と感じることなく物語を楽しむことができます。

ジャンルとしての評価

百合・ガールズラブジャンルにおいて、恋愛関係の最も困難で繊細な側面を正面から取り上げた意欲作です。性に対する価値観の違いという現実的な問題を扱うことで、ジャンルに新しい深みと成熟度を与えています。表面的な美化を避け、恋愛の現実的な困難さを描くことで、より幅広い読者層に訴求する内容となっており、ジャンルの発展に貢献する作品です。

総合評価

★★★★★ 5/5

恋愛関係における最も困難なテーマの一つを、真正面から描いた勇気ある作品です。読者によっては重いと感じる内容かもしれませんが、現実の恋愛関係でも直面する可能性の高い問題を扱っており、多くの人にとって考えさせられる内容となっています。シリーズ全体の中でも特に印象的で、恋愛漫画としての完成度が非常に高い巻です。

こんな人におすすめ

• 恋愛の現実的な困難さを描いた作品を求める方
• パートナーとの価値観の違いに悩んだ経験がある読者
• 性に関するテーマを成熟した視点で描いた作品に興味がある方
• 恋愛関係の深層を探求した作品が好きな方