作品概要
タイトル: HUNTER×HUNTER 24
作者: 冨樫義博
出版社: 集英社(ジャンプコミックス)
発売日: 2006年10月
巻数: 第24巻
あらすじ
モラウ対ヂートゥの海戦が決着し、ノブは宮殿内部への潜入を試みますが、護衛軍の威圧に心が折れてしまいます。パームが潜入作戦を引き継ぎ、危険な任務に挑みます。
モラウ対レオルの陸戦も展開され、新たな戦いが繰り広げられます。
そして王メルエムによる「選別」が開始され、人間たちに究極の選択が迫られます。宮殿での最終決戦に向けた準備が着々と進む緊迫の一冊です。
見どころ
ノブの精神的敗北と人間の限界
この巻で最も衝撃的なのは、ベテランハンターであるノブが護衛軍のオーラに圧倒され、精神的に完全に敗北してしまう場面です。これまで冷静で頼れる存在だったノブが恐怖で動けなくなる様子は、キメラアント護衛軍の恐ろしさを読者に実感させる効果的な演出となっています。プロのハンターでさえ心が折れるという展開は、物語の緊張感を大幅に高め、敵の脅威レベルを明確に示しています。
パームの潜入任務と献身的な愛情
ノブの代わりに潜入任務を引き受けるパームの姿は、彼女の強さとゴンへの深い愛情を表現しています。危険を承知で敵の本拠地に単身潜入する勇気は、一見か弱そうな外見とのギャップを感じさせ、彼女の内面の強さを印象づけます。特にゴンのために自分の命を賭ける覚悟を見せる場面は、愛情の深さと自己犠牲の精神を見事に描写した感動的なシーンです。
モラウ対レオルの陸戦と能力の応酬
海戦に続いて展開されるモラウ対レオルの陸戦は、それぞれの能力特性を活かした高度な戦術戦として描かれます。レオルの「謝債発行機(レンタルポッド)」により借用した他者の能力と、モラウの煙を使った多彩な戦術の攻防は手に汗握る展開となっています。特にレオルが使用する様々な借用能力の組み合わせは、読者に新鮮な驚きを与え、戦闘の予測不可能性を高めています。
王による選別の開始と人間への試練
王メルエムによる「選別」の開始は、物語の残酷さと深刻さを象徴する重要な展開です。人間を選別し、有用な者のみを残すという冷酷な行為は、王の価値観と人間観を如実に表現しています。しかし、コムギとの軍儀を通じて徐々に変化している王の内面との対比により、彼の複雑な心境も感じられる巧妙な構成となっています。選別される人々の恐怖と絶望は、読者に深い印象を与えます。
作者の特色・技法
冨樫義博先生の心理描写と緊張感演出の技術が特に光る巻です。ノブの恐怖による変化や、パームの決意に満ちた表情など、キャラクターの内面の変化が表情と行動を通じて見事に表現されています。また、複数の戦線が同時進行する複雑な構成を、読者が混乱することなく理解できるよう整理された構成力も印象的です。選別シーンでは、群衆の恐怖と混乱を効果的に描写し、読者にも緊迫感を伝える演出となっています。
ジャンルとしての評価
心理的恐怖とアクションを高次元で融合させた、成熟したダークファンタジー作品として評価できます。単純な戦闘だけでなく、人間の精神的限界や恐怖、愛情、自己犠牲といった深いテーマを扱っており、読者により深い感動と思索を促しています。特に選別というホロコーストを彷彿とさせる重いテーマの導入は、少年漫画の枠を超えた社会性と普遍性を持つ優れた作品として、ジャンルの可能性を大きく広げています。
総合評価
★★★★☆ 4/5 最終決戦に向けた重要な布石が各所に配置された、緊張感に満ちた優秀な巻です。ノブの敗北、パームの決意、モラウの奮戦、王の選別という多様な展開が巧みにバランスされ、読者を最後まで引き込む構成となっています。特に心理的な描写の深さと、物語の社会的なテーマ性は、HUNTER×HUNTERの作品としての格の高さを改めて印象づける内容です。
こんな人におすすめ
- 心理的な恐怖と緊張感を重視する方
- キャラクターの精神的な強さや限界に興味がある方
- 自己犠牲と愛情をテーマにした深いドラマを求める方
- 社会的なテーマを含む重厚な物語を好む方