HUNTER×HUNTER 29巻レビュー:ゴンの覚悟と強制成長、悲劇の連鎖

HUNTER×HUNTER29 少年漫画

作品概要

タイトル: HUNTER×HUNTER 29
作者: 冨樫義博
出版社: 集英社(ジャンプコミックス)
発売日: 2011年8月
巻数: 第29巻

あらすじ

薔薇の毒に侵された王メルエムは記憶障害に苦しみながらも宮殿へ向かいます。
プフコムギを狙い、キルアはコムギを連れて逃走を図ります。
そしてゴンカイトの死を知り、絶望から強制的に成長してネフェルピトーとの最終決戦に挑みます。王は徐々に記憶を取り戻し、ユピーは毒により死亡。
全ての運命が収束に向かう中で、それぞれのキャラクターが最後の選択を迫られる悲劇的な一冊です。

見どころ

ゴンの絶望と強制的な成長

この巻最大の衝撃は、ゴンカイトの死を受け入れられず、絶望から自らの全てを犠牲にして強制的に成長することです。「全部なくなってもいい」という覚悟で大人の姿になったゴンの変貌は、純粋だった少年の心が完全に壊れてしまった瞬間を表現しています。この展開は、主人公の成長を描く少年漫画の常識を覆す衝撃的な演出として、多くの読者に強烈な印象を残しています。

キルアのコムギ救出作戦

キルアコムギを連れて逃走する展開は、彼の戦術的思考力と友情への想いが最大限に発揮される場面です。プフという強大な敵に対して、真正面からの戦闘ではなく、頭脳戦と機転で対抗するキルアの成長が見事に表現されています。特にコムギという非戦闘員を守りながらの逃走は、彼の優しさと責任感を象徴する重要なエピソードとなっています。

王の記憶回復とコムギへの愛情

毒に侵されながらも記憶を取り戻していく王メルエムの姿は、愛の力の強さを表現した感動的な展開です。コムギとの軍儀の記憶が蘇ることで、王の中に人間的な感情が完全に覚醒します。特に「コムギ」という名前を思い出す瞬間は、彼の変化の象徴として美しく描かれており、種族を超えた愛情の普遍性を感じさせる名場面となっています。

ユピーの死と毒の恐怖

ユピーが薔薇の毒により死亡する場面は、ネテロの最後の作戦の恐ろしさを如実に表現しています。圧倒的な戦闘力を誇った護衛が、目に見えない毒によって徐々に弱っていく様子は、戦争の残酷さと科学兵器の恐怖を象徴しています。特にユピーの最期は、彼の純粋な戦士としての誇りと、王への忠誠心を表現した印象的なシーンとなっています。

作者の特色・技法

冨樫義博先生の感情表現と対比演出の技術が特に光る巻です。ゴンの絶望的な表情変化や、王の記憶回復時の安らかな表情など、キャラクターの内面の変化が表情を通じて見事に表現されています。また、希望と絶望、成長と破壊、愛と憎しみといった対照的な要素を同時に描くことで、物語に深い陰影を与える構成技術も秀逸です。戦闘シーンでも、力だけでなく感情の激しさが伝わる迫力ある描写となっています。

ジャンルとしての評価

少年漫画における「成長」というテーマを根本から問い直した革新的な作品です。通常、主人公の成長は前向きで希望に満ちたものとして描かれますが、本巻では絶望からの自己破壊的な成長として表現されており、従来の価値観を大きく覆しています。この斬新なアプローチは、読者により深い思索を促し、成長の意味や代償について考えさせる哲学的な深さを持った作品として、ジャンルの新たな可能性を示しています。

総合評価

★★★★★ 5/5 ゴンの衝撃的な変貌と王の愛情の覚醒を描いた、HUNTER×HUNTERの中でも特に印象深い傑作巻です。希望と絶望、成長と破壊が交錯する複雑な展開は、読者に強烈な感情的インパクトを与えます。特にゴンの強制成長は、漫画史に残る衝撃的な展開として、多くの読者に深い印象を残す名場面となっています。あらゆる要素が最高レベルで表現された、シリーズの代表作と言える一冊です。

こんな人におすすめ

  • 主人公の劇的な変化と成長を重視する方
  • 絶望と希望が交錯する複雑な展開を楽しみたい方
  • 愛情と記憶をテーマにした深い物語に興味がある方
  • 従来の少年漫画の枠を超えた革新的な作品を求める方
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