チ。―地球の運動について― 5巻 レビュー：新章突入！印刷技術が切り開く知識革命の扉

作品概要

タイトル： チ。―地球の運動について― 5巻
作者： 魚豊
出版社： 小学館（ビッグコミックス）
発売日： 2022年2月
巻数： 第5巻（全8巻）

あらすじ

時代は大きく動き、新たな章が始まります。活版印刷技術の普及により、知識の伝播方法が革命的に変化する時代。印刷職人ヨレンタと、天才的頭脳を持つドゥラカが新たな主人公として登場し、これまでとは異なる角度から地動説の研究と継承に挑みます。技術革新が知の世界にもたらす変革が描かれる転換点の巻です。

見どころ

印刷技術による知識革命の描写

グーテンベルクの活版印刷術が普及した時代設定により、知識の大衆化という歴史的転換点が見事に描かれています。手写本の時代から印刷本の時代への移行が、地動説研究にもたらす影響を丁寧に表現しています。技術革新の持つ力強さが伝わってきます。

ヨレンタの職人としての誇り

印刷職人ヨレンタのキャラクターが魅力的です。技術への真摯な姿勢と、知識を正確に伝えることへの責任感が印象的に描かれています。彼の職人気質と地動説への理解が深まっていく過程が、読者に新鮮な感動を与えます。

ドゥラカという天才の登場

新主人公の一人ドゥラカは、これまでの主人公たちとは一線を画す天才的な頭脳の持ち主です。彼の論理的思考と地動説への深い理解は、作品に新たな知的興奮をもたらします。キャラクターの多様性がさらに豊かになりました。

知識継承の新たな形

これまでの師弟関係や偶然の出会いとは異なり、印刷技術を通じた知識継承の形が描かれます。本という媒体が持つ力と、それを支える職人たちの技術が、地動説研究の新たな可能性を切り開いていく様子が感動的です。

作者の特色・技法

魚豊先生の歴史考証の深さが特に光る巻です。15世紀後半の印刷技術や社会情勢を詳細に調べ上げ、それを物語に自然に織り込んでいます。また、技術的な説明を視覚的に分かりやすく表現する画面構成も秀逸で、読者の理解を助けています。

ジャンルとしての評価

科学技術史漫画としての側面が強まった本巻は、単なる地動説の物語を超えて、知識と技術の関係性を深く掘り下げています。歴史漫画でありながら、現代にも通じる技術革新の本質を描いており、ジャンルの新たな可能性を示しています。

総合評価

★★★★☆ 4/5

シリーズの転換点として見事に機能した第5巻です。新たな主人公たちの魅力、印刷技術という新しい要素、そして知識継承の新たな形など、読者を飽きさせない工夫が随所に見られます。特に印刷技術の描写は、現代のデジタル時代を生きる読者にも深く響く内容です。物語の新章開始として申し分ない出来栄えです。

こんな人におすすめ

• 技術革新と社会変化の関係に興味がある読者
• 職人の技術と誇りを描いた物語が好きな方
• 知識の伝播方法の変化について考えたい方
• 歴史的転換点を扱った作品を求める読者