チ。―地球の運動について― 3巻 レビュー：受け継がれる意志と新たな主人公の登場

作品概要

タイトル： チ。―地球の運動について― 3巻
作者： 魚豊
出版社： 小学館（ビッグコミックス）
発売日： 2021年7月
巻数： 第3巻（全8巻）

あらすじ

時は流れ、新たな主人公として画家志望の青年オクジーが登場します。彼は星の観測に魅了されながらも、地動説という危険な思想に巻き込まれることを恐れていました。
しかし運命は彼を、ラファウから受け継がれた研究の継承者として導いていきます。世代を超えた知の伝播が、新たな物語の幕を開けます。

見どころ

新主人公オクジーの魅力的な設定

画家を志しながら天体観測に情熱を注ぐオクジーは、ラファウとは異なる角度から地動説に向き合います。芸術的な感性を持つ彼の視点は、作品に新たな色彩を与えています。恐怖と好奇心の間で揺れ動く彼の心情が、読者の共感を呼びます。

世代を超えた知識の継承

ラファウの研究がどのように次世代に受け継がれていくかが、感動的に描かれています。直接の師弟関係ではなく、偶然の出会いと運命的な導きによって研究が継承される様子は、知識の持つ生命力を表現しています。

ノヴァクの執念と進化

引き続き登場するノヴァクの執念深さと、手法の巧妙化が描かれます。彼もまた経験を積み、より狡猾で危険な存在へと進化していく過程が興味深く描写されています。敵役としての魅力がさらに増した巻です。

芸術と科学の融合

オクジーが画家志望であることから、芸術的な視点で天体を捉える場面が印象的です。美的感覚と科学的好奇心の融合が、新しい発見への道筋を示しています。ルネサンス期の知的環境が巧みに表現されています。

作者の特色・技法

魚豊先生の構成力の高さが光る巻です。主人公の交代という大きな変化を、読者に違和感を与えることなく自然に行っています。また、オクジーの芸術的感性を表現する画面作りも秀逸で、彼の内面世界が視覚的に伝わってきます。

ジャンルとしての評価

群像劇としての色彩を強めた本巻は、単一の主人公に依存しない物語構造の強さを示しています。歴史漫画でありながら、世代を超えた人間ドラマとしても高い完成度を誇ります。知的探求をテーマにした作品群の中でも、独自の位置を確立しています。

総合評価

★★★★☆ 4/5

主人公交代という大胆な構成変更を成功させた見事な第3巻です。オクジーというキャラクターは、ラファウとは異なる魅力を持ちながらも、作品のテーマを継承しています。特に芸術と科学の融合という新たな視点は、物語に奥行きを与えています。読者を飽きさせない展開力と、一貫したテーマ性のバランスが秀逸です。

こんな人におすすめ

• 群像劇形式の物語を楽しみたい読者
• 芸術と科学の関係性に興味がある方
• 世代を超えた知識の継承に感動したい方
• キャラクターの多様性を求める青年漫画読者