ブルーピリオド 9巻 レビュー：藝大生活の現実と向き合う八虎の苦悩と成長

作品概要

タイトル： ブルーピリオド 第9巻
作者： 山口つばさ
出版社： 講談社（アフタヌーンKC）
発売日： 2021年1月
巻数： 第9巻

あらすじ

藝大での新しい生活に慣れ始めた矢口八虎ですが、大学での厳しい講義や課題、講評に直面し、モチベーションを失いそうになります。同時に、ライバルである高橋世田介も猫屋敷教授から厳しい指摘を受け、自信を失っている状況です。
八虎は世田介を励まそうとしますが、「才能」と「努力」への考え方の違いから、さらに険悪な関係になってしまいます。

見どころ

藝大生活のリアルな厳しさ

第9巻では、憧れの藝大に入学した後の現実の厳しさが容赦なく描かれています。教授からの辛辣な講評や、同級生たちとのレベル差を痛感する八虎の姿は、多くの読者が共感できる普遍的な体験です。「新入生」としての緊張感と、思うような結果が出ない焦燥感が丁寧に表現されており、理想と現実のギャップに苦しむ大学生の心境がリアルに描写されています。

世田介との複雑な関係性

高橋世田介との関係が新たな局面を迎えます。これまで圧倒的な才能で八虎を刺激してきた世田介が、教授から厳しい指摘を受けて自信を失う姿は衝撃的です。八虎が「世田介くんには才能があるから」と励ましても、それが逆に世田介の心を傷つけてしまう展開は、友情の難しさを浮き彫りにしています。「才能」という言葉の重さと、それぞれが抱える複雑な感情が巧みに描かれています。

客観的視点の重要性

鉢呂からの客観的な意見を聞いた八虎が、自分の視野の狭さを痛感する場面が印象的です。これまで自分の感覚だけで物事を判断していた八虎が、他者の視点を取り入れることの大切さを学ぶ過程は、人間的な成長を感じさせます。美術という個人的な表現活動においても、他者との対話や客観的な視点が重要であることが説得力を持って示されています。

「絵は好きか」という根本的な問い

八虎が世田介に向けて発する「絵は好きか」という問いかけは、作品全体のテーマに関わる重要な場面です。技術や才能の議論を超えて、純粋に「好き」という気持ちの大切さを改めて確認しようとする八虎の姿勢は、読者にも深い印象を与えます。この問いかけが、両者の関係修復のきっかけとなる可能性を秘めており、次巻への期待を高めます。

作者の特色・技法

山口つばさ先生の心理描写の巧みさが特に際立つ巻です。八虎と世田介それぞれの内面の葛藤を、表情や仕草、独白を通じて繊細に表現されています。また、藝大での講義風景や作品制作の過程も丁寧に描かれており、読者が実際にその場にいるような臨場感を与えています。キャラクター同士の微妙な感情の変化も見事に捉えられています。

ジャンルとしての評価

大学生活を舞台にした青春漫画として、非常にリアリティのある作品です。美術という専門分野を扱いながらも、友情や競争、自己探求といった普遍的なテーマが巧みに織り込まれています。特に「才能」と「努力」の関係性について深く掘り下げた点で、従来の青春漫画とは一線を画する深みのある内容となっています。

総合評価

★★★★☆ 4/5 藝大生活の現実的な困難と、登場人物たちの複雑な心境が丁寧に描かれた重要な巻です。八虎と世田介の関係性の変化を通じて、友情の難しさと大切さを考えさせられる内容となっています。次巻での二人の関係修復への期待を高める、感情的に充実した巻として高く評価できます。

こんな人におすすめ

• 大学生活での人間関係に悩んでいる方
• 才能と努力の関係について考えたい方
• 友情の複雑さを描いた作品が好きな方
• 芸術系の専門教育に興味のある方